以下をアップしました。
高齢者の喜ばせ方、より丁寧に言えば高齢者のQOLの上げ方のお話をしています。
高齢者を喜ばせることは、何も特別な行為ではありません。誰かに喜んでもらうと自分も嬉しい、という当たり前の感覚の延長にすぎないわけです。これは実は、福祉の現場だけに限った話ではなく、ビジネスシーンでも全く同じことが言えます。たとえば商品やサービスを売るとき、B to CであれB to Bであれ、最終的に「相手が喜んでくれる」ことが本質的なゴールです。そこに満足感があれば、リピートや評価、口コミといった形で成果として返ってきますし、ビジネスの世界でも「売り上げにつながる」というわかりやすい形で結果が表れてきます。
しかし、高齢者を対象としたケアと同様に、「お客様の言うことをひたすら聞かなくてはならない」「とにかく要望を全部のむのが仕事だ」という義務感ばかりが先立つと、こちら側が機械的に対応するだけになってしまいがちです。すると、心から相手を喜ばせるという意識が薄れ、やがて負担や疲れを感じ始めるでしょう。さらに「どうしてこんなに言うことをきくのに、なかなか満足してもらえないんだろう」という疑問が生じると、だんだん押しつけがましい態度になってしまうかもしれません。相手から見れば、それがどんなに価値あるサービスであっても、ただ「やらされている」「売りたいだけ」という印象しか残らず、喜びの感覚が共有されることはありません。
それよりも、「どうすれば喜んでもらえるのか?」という問いかけを大切にするほうが、ずっと能動的にアイデアを巡らせることができます。たとえば顧客と対面で話をする機会があるなら、細かい要望や好みを引き出す質問をしてみるとか、過去の事例を交えつつ「こうした方がお客様に合うのでは」と提案する姿勢を示すなど、ちょっとした工夫を取り入れられるでしょう。こうしたやりとり自体が、お互いを理解する大切な時間となり、ビジネスの場面であっても「相手のことを考えながら一緒に決める」という意味合いをもたらします。
福祉施設で加湿器を置く場面をイメージしてみるとわかりやすいかもしれません。ただ「乾燥するから必要です」と言うだけでは事務的ですが、部屋のレイアウトや空気の流れ、さらには高齢者本人の嗜好を踏まえ、「どんな置き方や香りなら心地よさを感じられるか?」を考え、相談をしながら決めるだけで、そこにちょっとした楽しみや工夫が生まれます。ビジネスにおいてもまったく同じで、「どうすれば使いやすいか」「どんなデザインならイメージが膨らむか」「社内で利用する際にどんなメリットがあるか」を一緒に考えながら商品を導入してもらうだけで、クライアントとの関係性はぐっと近くなります。
結局、大切なのは「この人(会社)にとって何が喜びや満足につながるのか」を常に考え続ける姿勢でしょう。介助する側、あるいは商品やサービスを売る側にしてみれば、相手が笑顔になってくれたり、「助かった」「これが欲しかった」と言ってもらえたとき、その瞬間こそが報われると感じるのではないでしょうか。そうやって喜ばせることが自分自身の喜びや楽しみにもつながっていくからこそ、負担や義務感だけで動くのとは違う働き方ができるのだと思います。
そして、その姿勢が自然と伝わることで、ビジネスシーンでも良好な関係が築かれ、信頼感やリピートにつながっていきます。人を喜ばせる気持ちがあるからこそ、新しいアイデアが浮かんだり、さらに一歩踏み込んだ提案をしてみたくなる。そこにこそ、お互いが「単なる取引相手」ではなく、「一緒に何かを作り上げるパートナー」へと変わっていく手応えがあるのではないかと思います。高齢者との関わりも、ビジネスの取引も、根っこにあるのは「相手を思いやる」というごく当たり前の発想です。そして、その当たり前の感覚こそが、実は私たちをもっと生き生きとさせ、結果として相手にも喜ばれる秘訣なのではないでしょうか。